The Adventures of Swiss Family Robinson |
これはエルンストがボストンに戻ってから書いている本の内容と、今まで書いてきた日記をミックスさせたようなものです。
第 1回 旅立ち
第 2回 命拾い
第 3回 島の新生活
第 4回 不思議な洞くつ
第 5回 人質
第 6回 王の友情
第 7回 海賊現わる
第 8回 招かざる客
第 9回 ビリーのお手柄
第10回 海から来た少女
第11回 新しい家族
第12回 エルンストの恋心
第13回 森の怪物
第14回 恐ろしい出会い
第15回 忘れられた誕生日
第16回 島の亡霊
第17回 なぞの住人
第18回 伝説の男
第19回 受難のクリスマス
第20回 洞くつの宝
第21回 海賊撃退
第22回 父の怒り
第23回 迷路
第24回 新しい生命
第25回 ジョアンナの結婚
第26回 自由になったエミリー
第27回 2年ぶりのボストン
第28回 ろう獄の父
第29回 断たれた絆
第30回 判決の日
難破して、漂流し、僕たちロビンソン一家は島に着いた。ある時はそこが神様が見守っている楽園のように思えた。またある時は神様に見捨てられ二度と国に帰れないかと感じた。今では島もあの苦労もまるで夢のようだ。レイブン・ジョーンズの幽霊や海賊たちは、本物だったのか。
始めから話そう。それはボストンで始まった。1835年、祖父オスカー・ワイスの会社でのことだ。父はそこで何年も事務員をしていた。ところが父は、そんな生活に満たされないものを感じ始めていた。大冒険も山火事と同じように小さな火花から始まる。その火花が父の胸の奥にあった。何かを求めていた。そして、ついに決意した。こんな生活はもうたくさんだと思ったのだろう。その決意はみんなを驚かせた。でも一番驚いたのは父自身だった。僕たちはこの決意の重大さがわかっていなかった。父はロビンソン家の食卓でそれを打ち明けた。
母は父の夢をあきらめさせようとしたわけだが、そんなことをしてもしなくても結局は僕たちの人生を全く変えてしまうことになった。でも、そのことに父も母もまだ気付いていなかった。
出発の日が近づいた。僕たちの行く手に予想もしなかったことが起ころうとは、この時は思いもしていなかった。母は出発準備に忙しく、ジョアンナとクリスティーナもよく手伝っていた。家の中はごった返し、まるで戦場のようだ。
この時は、乗客や船乗りたちが後に僕たちの人生に大きく関わってくるとは想像もしていなかった。
美しいエミリー・チャンは人目を引いた。彼女は僕たちロビンソン一家と関わらず、食事も独りだった。付き添いのブラウンさんだけが一緒にいた。僕は密かに「氷の女」とあだ名を付けた。
ボストンを出て78日、僕たちは喜望峰をまわってインド洋を進み、悪名高い海賊たちの海へ近づいた。
翌朝家族はデッキに這い出した。落胆し、怯えて。でもとにかく生きていた。ずっと大海原の真ん中を漂っていると思っていた。だから、それを見たとき僕たちは驚いた。自分たちの目を疑った。
父と僕は船長のキャビンで海図を調べ、まず自分たちの位置を確認することにした。クリスティーナはブルーノを見つけ、動物たちの無事を確かめていた。父と僕がいかだを作っている間、母とジョアンナはこれからまだ使えそうな物を探した。二人とも今まで力仕事などしたことがなかったが、持ってきたすべての荷物をデッキに運び上げた。
いくら捜してもクリスティーナは見つからなかった。でも、僕たちは神様を信じお互いを勇気づけた。望みを捨てない限り必ず見つかると。
ビリー、そしてチャンさんとも再会して、他にも生存者がいるんじゃないかと思うようになった。ビリーは新しい家作りに参加したが、チャンさんは一人だった。彼女は依然謎めいていた。
それから数日後、僕たちの生活に変化が起きた。父は力仕事に励んだ。そして母は、家では炊事などしなかったが、薪を燃やしてパンを焼くようになった。クリスティーナは水を恐がらなくなった。ジョアンナは、鶏がどこに卵を産んだか見つける名人になった。だけどチャンさんだけは、相変わらずいつも一人でいた。父は力仕事を楽しんでいるかのようだった。おかげで家は急速に出来上がっていった。
僕たちはパーソンズとその相棒のベンを撃退したが、僕は彼らがこれであきらめたとは思っていなかった。そしてまた、どんな危険が僕たちに迫って来るのだろうか。でも、とりあえずはお祝いだった。
船が難破して、僕たち一家がインド洋にある熱帯地方のどこかの島に辿り着いてから3週間経った。僕たちの命は、常にパーソンズとその相棒のベンに脅かされている。彼らも島に流れ着いて難を逃れたのだ。ここで出会った野生動物は見なれないものばかりで、僕たちを恐れているようだ。ボストンから遠く離れ、未知のこの島の厳しい自然の中でなんとか生き延びなければならない。船の客室係だったビリーは、下の妹のクリスティーナと仲良しになり、クリスティーナはビリーがペットにしてた動物たちがお気に入りで大喜びだ。犬のブルーノはジョアンナ同様この島の新しい生活が気に入ったようだ。父と母でさえ、こんな厳しい状況にありながら楽しんでいるように見える時がある。しかし、心の中ではこの先何が待ち構えているか恐れているはずだ。エミリーは常にいらだっているようだ。ここでは自分のわがままが通らないこと、いつまで漂流者の生活が続くかわからずみんな平等でできる仕事を手伝うべきだという事実を受け入れられないようだ。エミリーのわがままは後に彼女の命を脅かしただけでなく、家族全員を危険にさらすことになった。
エミリーのわがままや火山など、後で降りかかってきた大きな危険に比べればなんでもないことを、その時は知る由もなかった。
木の像のある洞くつがなぜあんな所にあるのか、不思議でならなかった。
パーソンズとベンは、エミリーを人質にしたのも束の間、彼らも捕えられ、僕たちを陥れようとした二人の計画はふいになった。夜になっても火山は不気味な煙を吐き続けていた。まるで事件が起きる前兆のように。木の上の家では、みんなが王の病状を心配していた。母は効き目がありそうな薬草を煎じ、王の祈祷師も全力を尽くしたが、もう、王の命の火が消えつつあることを感じていた。
不思議なことに、またヤギが僕たちをエミリーのところに案内してくれた。ブルーノもなかなか頼もしく、自分の役割を心得ていた。
再びパーソンズとベンを撃退した。これも王とヤギのおかげであるのだが。エミリーも無事僕たちの元に戻り、神の御恵みで愛するクリスティーナも元気になった。シュラマナーは自分の役目を果たした。時々、あの夢のことを考える。あれは本当に夢だったのか、それとも現実だったのか。やがて、僕たちが恐れていた火山の脅威は治まったようだ。人間は神の下で母なる自然の力と共存するものだという僕の信念をますます強くすることになった。王が自分の島に帰ることになったとき、僕たち一家も一緒にと言ってくれた。しかし、今のところこの島が僕たちの住居だと思い辞退した。僕たち一家はこの王のことや、クリスティーナの命を助けてくれたシュラマナーのことを忘れないだろう。王と父の間に交わされた深い感謝のまなざしが印象的だった。それは友情の絆と言えるだろう。
島に流れ着いてもう3か月が過ぎた。時には島を楽園だと思えることもある。そういう時は、これからもずっとここで暮らしたいとすら思う。しかし、閉じ込められていることには変わりない。島は熱帯の牢獄のようだ。毎日神に祈りを捧げているが、救いが来るという希望は日々薄れていく。それでも住む場所はあるし、家族みんなで力を合わせなんとか楽しくがんばっている。そして、家畜たちもがんばっているようだ。万が一に備えて危険を知らせる装置も作った。獣だけではなく、パーソンズとベンの襲撃も有り得る。彼らはどこか隠れ家を見つけたらしい。パーソンズとベンが計画を練っていたころ、僕たちは迫りつつある危険に全く気付いていなかった。鳴子の音が危険を告げてはいたが、この時点では何が起こるのか皆目見当が付かなかった。
僕たちの誰もが待ちこがれていた船の姿。しかし皮肉なことに、この船が現れたことでパーソンズとベンの運命は大きく変わっていくことになった。
スキャッグスが僕の話を信じたかどうかはわからなかった。しかし、家族の危険は避けねばならない。
しかし、父の行く手に大きな危険が待ち構えていることをだれも知らなかった。
(エルンストはビリーと共に、スキャッグスらに捕まっていたため、日記は付けられなかったようだ。)
スキャッグスたちが父を殺そうと話し合っているころ、忠実なブルーノが現れた。僕を助けに来てくれたのだ。
ビリーと主のご加護のおかげで、独立記念日に僕たちも独立を取り戻した。また一つ危機を乗り越え、僕たちの絆は一層強いものになった。クサリヘビ号は島から出ていった。おそらく、スキャッグス船長一味がこの島に来ることはもう二度とないだろう。しばらくは、パーソンズとベンも。もちろん、パーソンズはこんなことでは引き下がらないだろうが。
この島に来てもう5か月が過ぎていた。父を仇と狙うパーソンズや海賊たちからなんとか難を逃れ、今は平和を保っている。いつでものろしを上げられるように、岬の突端には常に薪を用意しておいた。いつか神様が僕たちの祈りを聞き届けて、救助の船をよこして下さった時のために。海賊に気付かれては困るので、常時のろしを上げておくわけにはいかなかった。いつボストンに帰れるのか、ときどき絶望感が僕たちを襲った。エミリーはめったに家事を手伝おうとせず、家族みんなをいらいらさせていた。クリスティーナとビリーは鶏の世話に夢中だ。クリスティーナのお気に入りのヘンリエッタはしょっちゅう囲いから逃げ出しては森へ迷い込み、二人を困らせていた。父は常にみんなを励まし続けていた。僕たちがここまで生き抜いてこられたのも、父の統率力と思慮深さのおかげだ。ある日海岸沿いを散策していた父は、ある壮大な計画を思いついた。みんなを集めて家族会議を開いたところから、新たな冒険が始まった。
父と僕が洞くつの入口で不気味な霊気のようなものを感じたことは、他のみんなには黙っておくことにした。不安な思いをさせたくなかったからだ。ともかく危険はひとまず去り、再び島に平和な毎日が戻ってきた。父と僕は、砦作りに取りかかった。この砦が役に立つのかどうかはわからなかったが、枠組みが出来上がる頃にはみんな楽しそうに作業をしていた。ブルーノも頼もしい働き手だ。驚いたことに、あのエミリーまでが率先して働いた。みんなのためというより自分の身を守るためだったが。砦まで作って、いったいいつまでこの島で暮らさなければならないのだろうか。再び人間と出会える日が来るのだろうか。不安が僕の頭をよぎった。
翌朝、僕はまだみんなが眠っているうちに、昨日ビリーが人魚を見たという入り江にこっそり行ってみることにした。人魚なんて信じてはいないが、なにか引っかかっていたからだ。
それから数日が経った。モヤはすっかり家族の中に溶け込み、しばらくはのどかな生活が続いた。危険が迫っていることに誰も気づいていなかった。
自分でも信じられないことだが、いつのまにか僕はボストンに帰りたいと思わなくなっていた。モヤのことで頭がいっぱいだったからだ。
父の言う通り、僕はモヤに惹かれていた。おそらくエミリーを除いた全員がモヤに好意を寄せていたと思う。僕のモヤに対する感情が恋だとすれば、モヤはこの想いに応えてくれるだろうか。
モヤがアドゥーと再会できて本当によかった。去りゆく船を見送りながら、自分にふさわしい相手を見つけ、愛し合って生きる二人の姿に僕は心から感動していた。僕たち家族もこの島で暮らしていこう、互いに愛し合い、支え合い、理解し合いながら。家族への愛情とこの島での思い出は生涯忘れることはないだろう。そして、海から来たモヤのことを。
僕たち一家は中国に新しい生活を求め旅立った。しかしその途中、船が難破してこの熱帯の島にやっとのことでたどり着いたのだ。僕は、この漂流生活や島での冒険の体験を日記につけている。父と母は力を合わせ、ここでの生活を結構楽しんでいるようだ。妹のクリスティーナは、客室係だったビリーと大の仲良しになった。生まれ故郷のボストンはここからどのくらい離れているのか想像もつかないが、ボストンにいる親戚や友達はこの漂流生活をどう思うだろうかとよく考える。こんな島ならロマンティックだと思うに違いない。ここでは時間の観念がなくなってしまうが、日々必要な仕事をこなすだけでもあっという間に時が過ぎてしまう。母なる自然の力に向き合って生きのびていくのは、時には大きな喜びを味わうものの、反面大きな危険にもさらされる。クリスティーナとビリー、そして犬のブルーノとオウムのビークもそれぞれ楽しみ方を見つけた。そして中国人のエミリー・チャンも。妹のジョアンナは弓矢の腕を上げた。ある夜、父は子供たちに一つの提案をした。しかし、これが後に思いがけない事件になろうとは誰も予想できなかった。
その日は本当に特別な日になった。しかし、母が思い描いているような日ではなく。
ビリーとクリスティーナが勉強に四苦八苦しているころ、父とジョアンナと僕は不気味なものを見つけた。
この騒動の最中、パーソンズの動きをうかがっている動物がいた。それは、さっき森の中で見つけた足跡の主だった。そんなこととは知らないパーソンズは、子分のベンが戻るのを待っていた。
パーソンズとベンが家の近くでキャンプをしているとは知る由もなかったが、僕たちは警戒を怠らず今まで通りの生活に戻ろうとしていた。ただ、母だけはいろんな事件があったせいで神経が休まらずいらいらするようになってきた。
ビリーの行方はようとしてわからなかった。父と僕は必死にビリーの捜索を続けていた。クリスティーナが人質に取られたことも知らずに。
ビリーは虫に噛まれたのだろうか、その毒が回って高熱を出し、苦しんでいた。一方パーソンズは、妹のクリスティーナが意外にしっかり者で意思が強いために、自分の思い通りにはいかず手こずっていた。
父が危険な状態にあった頃、ビリーは奇跡的に元気になっていた。洞くつの中でゴリラと一晩を過ごし、いつのまにか傷を受けた者同士のいたわりのような気持ちが芽生えていた。一方、僕たちは不安に駆られながら残された最後の方法を取らざるを得なかった。
エミリーが自分の宝を手放すと言ったのには、みんな驚いた。でも僕は、後ろめたさから逃れようとしただけのような気がしてならなかった。しかし、それより気がかりなのは父のこととクリスティーナのことだった。クリスティーナはパーソンズから逃れたものの、家にたどり着く術を知らなかった。
神は僕たちの祈りを聞いて下さった。ビリーも無事戻り、父は元気になった。あとはクリスティーナが無事に帰ってくることを祈るだけだ。僕は、パーソンズが来るのを待った。
エミリーとビリー、そして勇敢なブルーノのおかげで、僕たち一家はまた元の生活に戻ることができた。僕にとっては忘れられない誕生日になった。クリスティーナもビリーと仲直りできたようだ。
雨季のため何週間も雨が続き、僕たちを苦しめた。時折雨が止むことはあっても、すぐまたもっと激しい風雨が襲ってくる。家だけはなんとか無事だったが、家畜の囲いは壊れてしまい、ほとんどの家畜は逃げ出してしまった。努力も虚しく、畑の作物はほぼ全滅状態になった。雨季は僕たちから、気力だけではなく生きる糧まで奪い去ろうとしていた。クリスティーナが一番心配しているのは、子豚のバルナバスだ。
怖い話をしたおかげで、その夜熟睡できた者はいなかったと思う。ジョアンナはブルーノのうなり声で目を覚ました。しかしそれは、亡霊ではなくパーソンズの子分のベンだった。
説明のつかない出来事に不安を覚えていたのはクリスティーナだけではなかった。僕も不気味な声を聞いたような気がしている。重苦しい雰囲気が家族を包んだ。
子豚のバルナバスの登場で僕たちがほっとしていた頃、島の謎の住人がついに姿を現した。その謎の人物を初めて見たのは、パーソンズとベンだった。いったい彼は何者なのか。
母は家族を励まそうとしたのか、それとも自分に言い聞かせていたのか。捕まったのは僕の方だった。ただ、誰に捕まったのかがわからなかった。
彼が本当に伝説のジョーンズだったのだろうか。僕はそう思いたい。しかし、彼の悲劇的な生涯が皮肉にも家族の絆を強め、僕と父との間の溝を埋めた。僕たちは二つ墓を並べて作り、二人を弔った。ダニエルズと、カラスのジョーンズのために。二人の肉体は島を出ることはないが、魂はきっと天国へと向かったろう。
僕たちは、ジョーンズの育てた米で二人の魂を祝福する食事をした。彼にとっては唯一の食料である米。それが彼の宝だったのだ。
僕たち一家がこの島に漂着してから11か月が過ぎた。いつか救出の船が来てくれるという希望は日に日に薄れてきていた。今日は12月24日、クリスマス気分が僕たちの心を和ませていた。
地上に平和を、人々に善意を。僕たち家族の心は、日々我々が祈りを捧げている主イエス・キリストの生誕を祝う気持ちで満たされていたが、僕の胸の中には、パーソンズとベンのことが引っかかっていた。あの二人の心にはクリスマスの精神は宿っていないのだろうかと。
一晩中激しい風が吹き荒れ、雷が鳴り響いた。僕は、嫌な予感がしてならなかった。昨夜の嵐は、何か良くないことが起こる前触れなのではないかと思った。父も同じように感じたらしく、僕たち二人は翌朝、避難所として丘の上に立てた砦を点検しに行ったが、その猛威は僕らを愕然とさせた。
そのころ僕たちは、嵐で破損した砦の修理に取りかかろうとしていた。お母さんとジョアンナの二人に危険が迫っているとは夢にも思わなかった。
その頃パーソンズは、海賊船の船長スキャッグスとの再会を果たしていた。
ベンとジョアンナの間に心が通い始めていた。そのことに父は真っ先に気付いていたが、とにかくジョアンナを無事に家族の元へ連れ帰ることが先決だった。凶悪なならず者たちの追跡の手はすぐそこまで伸びていた。
ベンを助けるため洞くつに戻った父は、入口が岩でふさがれているのを発見した。違う入口から洞くつに入ったスキャッグスたちも、別の問題に直面していた。
パーソンズ達はすごすごと退散していった。これもベンのおかげだ。
島で迎えた最初のクリスマスは、ジョアンナとベンにとって特に思い出深いものになった。みんなで励まし合い、支え合うことで、また一つ困難を乗り越えた。ひとまず、目の前の危険は去っていったが、また新たな冒険が僕たち家族を待ち受けていることだろう。沈む太陽がまた昇るように。
クリスティーナとビリーはすっかり仲良しになっていたが、エミリーは相変わらずよそよそしかった。この島を一番気に入っているのはブルーノかもしれない。ボストンに帰りたいなどとはまったく思っていないのだろう。母は最近、物思いにふけっていることが多い。なにか気に病んでることがあるのだろうか。父も時々、顔を曇らせることがある。父と母はジョアンナを心配しているのか知れない。ベンがここに来てから、ジョアンナはとても楽しそうだ。そんな二人を見ていると、父の心配事が何であるかわかるような気がする。僕は、漂流してから島での生活を書き綴っている。海賊との戦い、原住民との遭遇、そして伝説のカラスのジョーンズとの出会い。家族で力を合わせて乗り切ってきた。しかしある朝、母が父に打ち明けたことが僕たちの生活を大きく変えようとしていた。
何日も、何週間も僕たちは神に祈った。母のため、生まれてくる赤ちゃんのために、のろしに気付いて船が来ますようにと。しかし、一隻の船も通る気配はなく、果てしない水平線が広がるだけだった。僕たちは不安になり始めた。気丈な母のおかげで、普段と変わらない生活が続いた。もちろん、何もかも同じというわけにはいかなかったが。父はジョアンナとベンが気になり、二人から目が離せないようだ。そのことが新たな緊張を生みつつあった。父は毎日船を待っていたが無駄だった。出産予定日が近づくにつれ、僕たちは気持ちが揺れ始めた。
母の出産も気がかりではあったが、それよりも気がかりなのはベンとジョアンナに対する父の怒りがエスカレートしていることだった。
母のおかげで、ジョアンナは父の怒りをなんとか免れた。父がジョアンナとベンを引き離そうとすればするほど、二人の絆は強くなっていくようだった。
ベンとジョアンナの結婚話は、父と母の間にまで亀裂を生じさせてしまった。しかし、いちばん苦しいのはベンだった。ベンは、ジョアンナをあきらめることはできなかった。
父とベンが一時休戦し、洞くつの中で迷ったジョアンナを必死に捜していたころ、家では新しいロビンソン家の一員が世の中に出てこようとしていた。
鶏のヘンリエッタにも子供ができた。クリスティーナの喜びをよそに、母の容態は相変わらずだった。主が僕たちの祈りに応えて下さるのを願うしかなかった。熱が下がり、母が治りますようにと。
また新しい毎日が始まった。赤ちゃんは希望という意味の「ホープ」と名付けられた。ホープだけではない、わが家にはもう一人新しいメンバーが増える。
家族は、ベンこそジョアンナの手を取るにふさわしい男だと認め、ベンをロビンソン家の一員として受け入れることに決めた。この先またどんな冒険が待っていても、僕たちはきっと乗り越えていけるだろう。
僕の記録が正確なら、僕たち一家はこの熱帯の島で22か月を過ごしたことになる。僕たちを苦しめたパーソンズや凶暴な海賊たちがいなくなってからは平和な生活が続いた。あの海賊たちが二度とやって来ないよう神に祈っている。ホープが生まれて、みんなこれまでにない喜びと幸せを味わった。しかし、もし僕たちが救出されずボストンに戻れなかったら、どんな未来が待っていることだろう。毎日生きていくのに必要な仕事で忙しいが、警戒は怠らない。敵の襲撃に備えて、避難所と防衛装置のある砦の用意は常に万全だ。今は、ジョアンナとベンの結婚準備に忙しい毎日だ。男たちは二人の新居づくり、母とクリスティーナとエミリーはジョアンナを落ち着かせたり花嫁支度でつきっきりだ。
夜が明けて、ジョアンナとベンの大切な日を迎えたとき、また危険が迫っているとは知る由もなかった。あの海賊たちが戻ってきたのだ。パーソンズとメアリー、それに狂暴な仲間たちがこの島に近づいていた。でも僕の頭は、エミリーのことだけだった。
パーソンズが海賊たちに置き去りにされた頃、僕たちは胸を弾ませて船を待っていた。ついに、神が僕たちの祈りを聞き届けて下さったのだ。しかし、救助されたあと思いがけない事件に巻き込まれることになった。
僕たち一家がボストンに戻るまでの状況は、なんとも奇妙なものだった。2年近くいたあの島は、今や僕たちの故郷のようになってしまった。そこには数々の冒険と、たくさんの思い出がある。父は卑劣なパーソンズに殺人罪で告訴されたため、身柄を拘束されてしまった。船長は、日に2回の散歩を許してくれた。パーソンズも同様、船室に監禁された。ビリーが食事を運ぶ役目を引き受けていたが、どうやらその一部を犬のブルーノのためにこっそり確保しているらしい。
希望と期待に胸をふくらませて中国に向けて出発した時のことを、時々思い出す。僕たちはやっとボストンに帰れるわけだが、先のことはわからない。冒険は終わったように見えるが、なぜか今始まったばかりのような気がする。
僕たちの新しい生活は、困難なものになりそうだ。特に父にとっては。きっぱり断ち切ったつもりでいた祖父の世界に、再び足を踏み入れたのだから。
ビリーはオウムのビークや豚のバルナバスと一緒に暮らすことになった。
ベンとジョアンナは、裁判所の召喚状を受け取って不安な様子だった。実はパーソンズも利用されているとは知らずクワン・センの陰謀に操られていた。
父を守ろうとして思わず発砲したが、幸いパーソンズは命を取りとめた。パーソンズは病院に収容され、父は無罪になって汚名を晴らせた。でも、またパーソンズと関わることになるのだろうか。
今まで書き綴った日記には、父や母のこと、妹のジョアンナとクリスティーナのこと、船の客室係だったビリー、島でジョアンナと結婚したベン、そして、なかなか僕たちとなじんでくれなかったエミリーのことなど、島で過ごした2年近い漂流生活のことを書いてきた。これからは、今までとは全く違う日記になるだろう。島では数知れない危険に直面したが、ボストンの生活ではどんな試練が待ち受けているのだろうか。自然の中で2年近く生活をしてきた僕たちが、文明社会に適応するには時間がかかるような気がする。
元の生活になじめなくなってしまったのは、ジョアンナとベンだけではなかった。みんな、ボストンの社会になかなか溶け込めず、島での生活を懐かしがっていた。特にビリーは、馬屋を自分の居場所と決め、島の生活を思い出していた。
父の逮捕は間違いではなかった。きっと、父に恨みをもつ者の仕業だと思うが、でも誰なんだろうか。翌朝、祖父の報告を聞いてみんな愕然とした。
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父を安心させるような手紙を書いていたが、実際は家族の気持ちがばらばらになっていた。 父は裁判が始まって間もなく意気消沈し、希望を無くしてしまった。クワン・センの富の力は果たして、正義の道をも曲げるほどのものなのだろうか。
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この結果は最初から確信していたが、ついに父は無罪を勝ち取り名誉を回復した。そして僕たち家族に予想外の出来事が起きた。家族でお祝いをしているとき、エドモンズ氏が僕たちの人生を変えることになる知らせを持ってきたのだ。
ビリーがまた家族と出会って島で暮らせることになったのは何よりうれしい。僕も早くエミリーと一緒に暮らせたらと思う。しかし僕の人生の中でどんなことがあろうと家族で暮らした島での有り難い経験はいつも懐かしく思い出すことだろう。